Monthly Column
ー“You’re going to reap just what you sow”ー
『PERFECT DAYS』 上映:1月1日(火)〜 終了未定
2023年 日本 2時間04分監督:ヴィム・ヴェンダース出演:役所広司/柄本時生/中野有紗/アオイヤマダ/麻生祐未/石川さゆり/田中泯/三浦友和
学生時代何の拍子にヴィム・ヴェンダース監督作品に出会ったのか、今では全く思い出せないが、『ベルリン・天使の詩』も『パリ・テキサス』も知らずに、『さすらい』をVHSビデオで観て、映写技師という存在を知った。実を言うと当時の私は『ニュー・シネマ・パラダイス』さえ観ていなかったから、映画に対するロマンは『さすらい』によって先に刷り込まれている。ドイツ語の音が当時は耳に馴染まなくて、見続けるのに苦戦した覚えさえある。それでも長尺のあの映画に、何だか引き込まれた。たまたま、ヴェンダースとの出会いが初期作だったこともあり、その後ほぼ年代順にヴェンダース映画を追いかけて観ていった。どの映画の主人公もポツンと一人でいるように見えて、でも何かと強く繋がっているように見えた。その生き方というよりも、その「居方」がいつも気になった。憧れたのかもしれない。ヴェンダース監督が描き出す映像と音楽と世界観、そして人の描写に惹かれ今に至る。
現代の日本・東京を切り取った『PERFECT DAYS』にもまた、何かと強くつながる平山がいた。毎日決まった時間に起き、日常のルーティンで仕事に出かけ、丹念に誠実に働く。仕事を終えて、銭湯に行き、地下街で酒を飲み、1日を終える。本を読み、そして眠る。彼は公共トイレの掃除人だ。日常は繰り返されても、その日はその時にしか紡げないことを、きっとこの男は知っている。自前の掃除道具を一式詰め込んだ車は、平山のもう一つの安息地のようにも見える。その空間には音楽が欠かせない。それもカセットテープ。年季の入ったカセットテープを数個手に取って選ぶときのケースがぶつかり合う音、カセットをオーディオに入れるときの音さえ、彼の1日を彩る大切な色合いになる。同じような日々の繰り返しとて、全く同じ日は二度と来ない。
彼はどんな人生を歩んできたのだろうという疑問が湧く。それがだんだん垣間見えてくる。そうか、彼にはどうやら手放したものもあれば、手に入れたものもあるようだ。 平山は一人で暮らしているが、彼の周りには人たちが生き、草木も生きている。ふと目に入る植物も平山の人生を彩る要素だ。トイレを丁寧に磨き上げ、汚れを流す彼の日常を見て思う。生きるという実感は、意識しないと気が付かないものなのだ。きっと彼はそれを手に入れたのだろう。日常の中に身を置く、平山の居方にそれが、あらわれているように思えた。
(志尾睦子)