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Monthly Column

ー想像と妄想が未来と希望を作るー

『ペルリンプスと秘密の森』 上映:2月23日(金)〜 3月7日(木)

2022年 ブラジル 1時間20分 監督:アレ・アブレウ

妄想の時間の中で過ごしていた子供時代を思い出す。妄想だと言う認識もないまま、目の前のおもちゃが話し出したり、空からUFOが現れたり、現実とは違うことが頭の中に浮かびそれは取り止めのない物語を紡いでいった。何の制限もなくどこまでも自由で、驚くほどになんだって出来た。大人になるとそれは、ある種意識して「展開」していくものとなり、生活の中のツールにもなり、表現として機能するものにもなった。アニメーションはこの妄想の産物の一つだと思うのだが、あらゆるどんなことでも「描き出す」ことができる。もちろんそこにはその表現力や技術が伴うわけで、これは時に妄想を超える更なる創造物になりうる。

 

独特の色使い(そんなありふれた表現でしか今は本作の深い世界観を表現できないのがなんとも歯痒い)に加えて、ちぎり絵のような色の重ね方で生み出される立体感、そして想像力をどこまでも掻き立てる音楽が、この物語をダイナミックに、スペクタクルに押し広げていく。色(もとい画力というものかもしれないが)の表現力はおよそ今まで見たことのない感覚に襲われるものだった。 実写と見紛うほどのリアルな画力のものもあれば、シンプルな線画で全てを成立させてしまうもの、パキッとした色のコントラストで世界を描いたり、淡い色味で柔らかく世界を包み込むものもある。様々なアニメーション表現の中でも本作は、ある種全てが取り入れられながらもそのどれとも言い切れない豊かさに満ちていた。

 

舞台は”魔法の森”だ。様々なエネルギーに満ちた豊かな森は、いつしか巨人たちの支配によって消滅の危機に面していた。この森を救うべく、太陽の王国からはキツネオオカミのクラエが、月の王国からはクマライオンのブルーオがそれぞれ秘密エージェントとして派遣されて来る。太陽の王国はテクノロジーに長けた国で様々な機械を駆使して生活をし、一方月の王国は自然と調和した生き方をする国で精神性に長けている。性質も生き方も全く異なる二つの国は、1世紀にわたって対立し続けてもいて、クラエとブルーオは出会った時から反目するのだ。それでも、互いの目的は一つ。森を救うという「ペルリンプス」を探すこと。次第に彼らは、互いのないところを補うようになり一緒に目的に向かうようになる。

 

めくるめく物語の結末に、正直言葉を失った。ああ、そうか。確かに。この大事な感覚を忘れていたよと。素晴らしく見応えのある、心を叩く一作だった。

(志尾睦子)

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