Monthly Column
ー支えー
『のんきな姉さん』 上映:1月1日(月)〜 終了未定
2004年/87分 監督:七里圭 出演:梶原阿貴/塩田貞治/大森南朋
人生には転機を迎える時期がある。私にとっては紛れもなく2004年だ。高崎映画祭のプログラムディレクターとして独り立ちし、映画館を作った年。なぜか大海原に出てしまい、とにかくがむしゃらに船を漕ぎ続けた感じである。そうして気がつけば、お陰様で2024年12月、シネマテークたかさきは20年を数えるまでになった。これもひとえに、当法人の事業を理解してくださる皆さま、映画館に足を運んでくださる皆さまの、温かい支えあってこそである。この場をお借りして、深く深く、感謝申し上げます。
思えば数々の荒波を越えて来たものだが、その度に心の支えとしてきたのは、いくつかの映画と、同時代に生きる映画人の姿勢だった。これらは勝手なファン心理と羨望によるものなので詳にする気もないが、ここであえてその話を出そうと思うのは、そのお一人が七里圭監督だからである。七里監督もデビュー20周年。勝手に同志だと思ってきたことの辻褄があった気がして嬉しくなってしまう。
残念ながら紙面が足りないので、一つだけ『のんきな姉さん』に触れておきたい。本作は、第18回高崎映画祭(2004)の若手監督特集で上映した、森鴎外の「山椒大夫」、唐十郎の小説「安寿子の靴」、山本直樹のコミック「のんきな姉さん」の3つの物語からインスピレーションを得ているという触れ込みに惹かれたものの、当時の私は山本直樹さんを存じ上げなかった。だからそのミクスチャーの妙味を本当に理解できたかはわからないが、映画の世界にはどっぷりとハマった。
映画祭でお呼びした際、七里監督は、用意した控室には行こうとせず、スタッフのいる受付の隅に自ら椅子を持って来て「ここにいていいですか」と言った。だからといってスタッフと話をするでもない。静かにただにこやかに、私たちの様子を眺めていらした。そこにある種の自由さと寛容さを感じた。この自立したキャラクター(監督)がつくり出したのがあの『のんきな姉さん』なのだと、理解した。以来、作品が発表される度に追いかけた。作品も、上映の場にいる佇まいも、少しもブレない姿勢に憧れ続けている。
実はいまだに、季節になると水色のダッフルコートに目がいってしまう。袖を通せる自信はいまだにない。
(志尾睦子)