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Monthly Column

ー拝啓、マチュー・アマルリック様ー

『バルバラ セーヌの黒いバラ』 上映:3月16日(土)〜 3月22日(金)

2017年 フランス 1時間39分監督:マチュー・アマルリック出演:ジャンヌ・バリバール/マチュー・アマルリック/ヴァンサン・ペイラニ

『マチルド、翼を広げ』 上映:3月30日(土)〜 4月12日(金)

2017年 フランス 1時間35分監督:ノエミ・ルヴォウスキー出演:リュス・ロドリゲス/ノエミ・ルヴォウスキー/マチュー・アマルリック/アナイス・ドゥムースティエ

国内外の映画人に取材をされている新聞記者さんに「今までで一番印象に残っている方は誰ですか?」と尋ねたことがある。その方は、間髪入れずに「マチュー・アマルリック!」とおっしゃった。取材の部屋へ通されると、奥からバスローブを纏って、クロワッサンをボロボロこぼしながら登場してきたそうだ。私はそれを聞いて小躍りしてしまった。なぜなら、スクリーンの中のマチューそのものだったから。いたずらっ子のような表情で、チャップリンのようにコミカルで、物語をかきまわす人。彼が登場すると「何かやってくれるんじゃないか。」とつい期待してしまうのだ。
3月はマチュー作品が2つも揃う。
『バルバラ セーヌの黒いバラ』は、実在したシャンソン界の女王の映画を撮影する人たちの物語。マチューは映画監督イヴを演じ、ややこしいことに監督も務めている。マチューの手にかかると単なる伝記映画にはならない。演じることで次第にバルバラに憑りつかれていく映画女優と、自ら演出するバルバラに囚われていく映画監督のさまよい、そしてバルバラの音楽や映像を通して次第にバルバラの姿を浮かび上がらせる。また、バルバラ(を演じる女優)の歌声に恍惚とした表情を浮かべ奇行に出るイヴ監督がマチュー本人と重なり合う。2013年来日時のインタビューで「朝起きて、1番に考えることは自分の監督作品のことだけ。」と言い放つマチューもまた、イヴ監督と同じように、映画という魔物に憑りつかれて抜け出せないでいるのではないだろうか。
一方の『マチルド、翼を広げ』は、主人公マチルドの父親役として出演。平凡な役で拍子抜けしたが、いつも不在の父親は、実はあのフクロウ(ギョロっとした瞳が似ている)に憑依して娘を助けているのではないだろうかと勘繰ってしまう。それは、マチューにはいつも驚かされたいし、そんな存在でいてほしい。という私の願望なのかもしれない。

(小林栄子)