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Monthly Column

ーコラムー

『バーニング 劇場版』 上映:4月6日(土)〜 4月19日(金)

2018年 韓国 2時間28分監督:イ・チャンドン出演:ユ・アイン/スティーブン・ユァン/チョン・ジョンソ

一体全体この映画体験をどうやって文字に置き換えたらよいのか…。しかしながら、そんな映画に出会えたことの喜びは大きい。初めて観てから半月以上が経つが、この映画のことが頭から離れない。
市井の人々の日常から社会の歪みをあぶりだすイ・チャンドン監督。8年ぶりとなる新作では、大学は卒業したが、職業不定で作家を目指す30代くらいの青年・ジョンスを主人公に据え、彼と対照的な暮らしをしている同じ年頃のベン、自由を求めて生きる女性・ヘミ、この3人を通して、現代の若者たちの生きる意味を問いかける。
ストーリーは、ある「事件」をめぐるミステリーあるいはスリラーの枠を持ってはいるが、それを超えた異様な展開を見せていく。そこら中に謎を解くための情報が張り巡らされていて、まず、ヘミがアフリカから連れて帰ってきたベンの存在が謎に包まれている。本心を隠しているような不穏な笑みを浮かべ、物質的な豊かさを享受しているが、満たされていないようである。一方のジョンスは苦しい生活を強いられ、未来への不安を抱えて絶望しているようだ。この2人には生きることへの虚しさが臭っている。ジョンスはヘミとの出会いによって、“南山タワーから反射する時だけ部屋にわずかに射し込む光”のような希望を見出すが、ベンの登場により、そこに影が差していく。さらに「事件」後には、得体の知れない不安が彼を襲い、今まで表に出さなかった感情が噴出する。ベンの意味深な台詞、奇妙な趣味、姿の見えない猫、洗面台の引き出しの秘密…ジョンスはベンに翻弄され、彼に迫ろうとすればするほど、つかめなくなっていく。ジョンスが抱える得体の知れない不安とは一体何か…?
監督の観客への問いかけは、複数の不可解なキーワードに隠されているようである。しかしそれらの意味を見出そうとする作業は容易くない。如何様にも解釈可能な本作に私はい未だに翻弄されている。

(小林栄子)