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Monthly Column

ーごはん食べましたか?ー

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』 上映:6月9日(土)〜 6月22日(金)

2017年 韓国 2時間17分監督:チャン・フン出演:ソン・ガンホ/トーマス・クレッチマン/ユ・ヘジン

5年前。釜山国際映画祭を訪れた時、次の映画までの時間、会場近くの食堂で昼食をとった。確か、魚定食だったか、メインの焼き魚の他にたくさんのおかずが運ばれてきた。映画の開始まで時間があまりなかったのと、1人前にしてはサービス満点なのが合わさって、とても食べきれなかった。そそくさと会計を済ませてお店を後にしようと思ったところ、お店のおばちゃんが、流暢な日本語で話しかけて来た。「ちゃんと食べましたか?」と聞かれてドキっとした。やはり食べ残しは失礼だっただろうか。と反省していると、「釜山には1人で来たのか?大変なことがあったら、ここに電話して。」と携帯番号をその場でメモして渡してくれた。なぜ見ず知らずの外国人に(良い意味で)“おせっかい”を焼いてくれるのだろうかと不思議に思った。後に知ったが、「ごはん食べましたか?」とは、挨拶のひとつで、日本で言うならば、天気の話をするようなニュアンスがあるそうだ。侵略などで食べ物に困る時代が長く続いた国ゆえに、相手の食事を気づかう精神がこの挨拶にある。

 

本作の主人公タクシー運転手とドイツ人記者は、光州でいくつもの”おせっかい“に出会う。面倒見のいい光州のタクシー運転手が2人を家に招き入れる。奥さんは突然の訪問にやや困惑気味だが、主人が「ご飯とキムチだけあればいい」と言った次のシーンには、ちゃぶ台にありったけのごちそうが敷き詰められている。また、闘いの最中の女性からおにぎりを差し入れされる。本作の背景にある「光州事件」は、戒厳令下、民主化を求めて学生によるデモが起こり、軍が彼らを暴徒とみなして不当に弾圧した。その後、光州市民も加わり、学生たちを助けた。そして、タクシー運転手たちは、負傷した学生たちをタクシーに乗せて病院へ連れて行きたいだけなのに処罰されてしまった。情報も道も封鎖され、「この事実を伝えてほしい。」と、市民たちは連帯する。そしてその願いは、1人のドイツ人記者に託された。(小林栄子)

 

(小林栄子)