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Monthly Column

ー悠久の時を刻むー

『「BOMシリーズVol.16」アレクサンドル・ソクーロフ監督特集』 上映:12月1日(金)〜 12月14日(木)

特集名: アレクサンドル・ソクーロフ監督特集

今年のBOMシリーズには、アレクサンドル・ソクーロフ監督特集がお目見えする。BOMとは、かつてヨーロッパを中心に煌めく映画たちを紹介してきたフランス映画社(1968年〜2014年)が掲げたBOWシリーズになぞらえた当館独自の監督特集のことだ。BOWはBest films of the Worldから来ており、「傑作を世界から運ぶ」をスローガンとしたフランス映画社のセレクションを指す。その意図を拝借し、Best of MOGIMASAOとしてBOMシリーズが生まれた。シネマテークたかさきの創設者である茂木正男が愛してやまなかった映画監督への熱い思いを皆様へお届けするもので、2008年11月に他界した茂木が、生前書き連ねていたリストを元に、毎年12月の開館記念に合わせて上映している。

 

今年71歳のソクーロフ監督はロシアのイルクーツクで生まれ育ち20代から映画を撮り始めた。50年前といえば激動のソビエト時代。作る映画は全て検閲にかかり公開禁止処分を受けたという。世界にソクーロフ作品が知られるようになるのはペレストロイカ以後だ。 ソクーロフ作品が日本で紹介され始めたのがおそらく1994年。翌年の第9回高崎映画祭では、洋画ベストセレクションの1本として40分の短編がプログラムされている。

 

それは1978年制作の処女作『マリア』で、上映に際し当時44歳のソクーロフ監督は来日し、約1週間を高崎で過ごした。この1作のためにロシアの監督を呼んでしまう茂木たちの気概と先見性と映画愛には脱帽する。そして監督は滞在中に「旧軍人に会いたい」「建築現場が見たい」「盆栽のことを知りたい」「神社と大木が見たい」とリクエストしたそうで、それを叶えるために県内各地を一緒に回ったという。個人的に一番印象に残っているのが、一緒に山へ入りそこで見つけた大木に、監督が両手を伸ばし、しばらくの間じっとしがみついていたと言う話で、茂木は目を閉じ、架空の木を抱きしめその真似をした。その姿が可笑しくもありながら、妙に感動したのを覚えている。自然の声を聞き、悠久の歴史をたどり、かつての日本人の心に耳を傾けていたのだろうと思わされたからだ。

 

2004年私たちは映画館を作り、翌年、昭和天皇に焦点を当てた『太陽』を上映した。かつての高崎での時間が実を結び、映画になったばかりか、上映出来るとは。映画館というのはなんとロマンのある仕事なのだろうとその時思った。 新作『独裁者たちのとき』に合わせたBOMシリーズには、受け継いだ我々の映画への愛とロマンが、丸ごと詰め込まれていると思っていただけたら、嬉しい。  

(志尾睦子)

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