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Monthly Column

ー大志とともに、どこまでも行こうー

『雑魚どもよ、大志を抱け!』 上映:5月5日(金)〜 5月18日(木)

2022年 日本 2時間25分 監督:足立紳 出演:池川侑希弥/田代輝/白石葵一/松藤史恩/岩田奏/蒼井旬/坂元愛登

“Boys,be ambitious” 私の記憶が正しければ、意識的に英語を覚えた最初の言葉がこれだった。「少年よ、大志を抱け」という言葉になんだがとても心が熱くなったのを覚えている。大志に、自分の名前の字が含まれていることにも気分が高揚し、また後世に残る言葉を残す人の存在にも、子ども心に強く関心を持った。小学3年生か4年生の頃だったと思う。この言葉とそれを発した人を教えてくれたのは父親で、北海道出身の父にとって、札幌農学校を設立したアメリカ人教育者・クラーク博士は尊敬する偉人の一人だったようだ。何度か、クラーク博士の足跡を二人でたどったことが懐かしく思い出される。

 

先を行く大人が、これから世の荒波に飛び出していく若者たちに向けた最大のエール。自分の無限の可能性を信じろ、それが痛切に伝わり大好きな言葉になった。

 

さて。無論この言葉をもじりタイトルに関した『雑魚どもよ、大志を抱け!』は、なんともまあ抜群のネーミングセンスだと思う。大人が子どもに向けで雑魚だと言い放つ、そのユーモアと愛情を今一度感じることが必要だ。いまの時代だからこそ。

 

長らく脚本家として活躍する足立紳氏は、2016年『14の夜』で監督デビューした。1987年に生きる中学生たちの、“いまここ”を浮かび上がらせた躍動感ある作品で、こんな描き方もあるのかと思ったものだ。田舎のビデオ屋の存在とか、彼らの周りにいる大人たちの感じとか、不可思議なこともたくさんあった“時代のゆとり”みたいなものが描かれることに、映画の真を見た気がした。

 

足立監督3作目となる本作の時代設定は1988年、主人公は小学5年生だ。ほんとのいじめと、からかいあう友達の違い。大人の事情に振り回されながら、自分の世界を掴もうとする成長期。子どもを一人の人として対応する大人たちの存在。行動範囲も知り合う人も限られる子どもたちの世界は、狭い。だけど、人の目を通して世界を見られる彼らのスケールは、実は大きいのだ。そして昭和の時代設定だからこそ描ける“人間のおかしみ”。足立監督は、時代の流れの中で、人々が線を引き、警戒してきたことに対して、「いや〜。そういうものじゃないと思うんですよねえ。」というノリで、本質を見せようとする(ように見える)。その軽やかさこそが、足立流なのだと思う。そして多用される長回しの見事なこと!画に音に空気に映画魂が宿り、少年たちの“いまここ”に引き込まれた。映画の中に、大志あり、である。

(志尾睦子)

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