Monthly Column
ー時を経ても変わらないものー
『子猫をお願い4K リマスター版』 上映:4月1日(土)〜 4月6日(木)
2001年 韓国 1時間52分 監督:チョン・ジェウン 出演:ペ・ドゥナ/イ・ヨウォン/オク・チヨン
2004年6月。まだ桜丘町にあったユーロスペースへ、『子猫をお願い』を観に行った。当時の私はまだ何者でもなく、3月に契約満了で前職を辞めたばかり。将来の約束がされているわけでもない。次の仕事を探しながら資格試験の勉強をし、映画祭のボランティアスタッフ活動に明け暮れていた。これが仕事になったらいいのになあと思いはじめた頃でもあった。でも、その思いを言葉にすることすら憚られた。
そんな時にこの映画に出会った。当時の現代劇だから2000年初頭の物語で、高校を卒業した親友5人組の二十歳の時間を紡いでいる。韓国は数え年で歳を数えるというのも、この映画で知った。証券会社に勤めるヘジュは煌びやかな社会人生活を夢見ていたものの、実際はお茶汲みコピーばかりで、自分が軽んじられていることに日々の不満を募らせていく。実家のサウナ業を手伝いながらボランティアで障がい者の口述筆記を続けるテヒは、そこでほのかな恋心を芽生えさせる。テキスタイルの勉強をしたいと願うジヨンは、貧しい生活の中それも叶わず、壊れそうな家で年老いた祖父母の世話をしながらつましく暮らす。双子のピリュとオンジュはいつも二人一緒で、露天商のようなことをしながら生活費を稼いでいる。社会や家族の事情の中で、いろんな壁にぶつかる彼女たちの日常が瑞々しく描き出されていた。友達だからといって全てを話せるわけでも、理解できるわけでもなく、時にはぶつかることも当たることもある。その素直な関係性が、行きつ戻りつすることの大事な時間を教えてくれるようだった。自分の歩幅で歩みを進めていく彼女たちの姿に、当時の自分の不確かさを肯定された気がしたのかもしれない。誰かの人生ではない、自分の生き方がある。その爽やかなエールはとても心に響いた。
映画館を出た後、こんな映画を上映する映画館が本当に高崎に出来たらいいな、と思ったことを覚えている。韓国からサントラを取り寄せ、何百回と聞いたCDは今も私の宝物だ。その当時、映画館を作ろうという気運は高まっていたけれど、私にはどこか夢物語のままだった。だから、この映画との出会いはまさしく転機だった。『子猫をお願い』でオープニングを飾ることは出来なかったが、その後私はミニシアターの支配人になった。あれから20年が経つ。シネマテークたかさきで、こんな素敵な映画を上映できる日が来るとは。
きっとまた、誰かの背中をそっと、押してくれるに違いない。
今も私の宝物だ。その当時、映画館を作ろうという気運は高まっていたけれど、私にはどこか夢物語のままだった。だから、この映画との出会いはまさしく転機だった。『子猫をお願い』でオープニングを飾ることは出来なかったが、その後私はミニシアターの支配人になった。あれから20年が経つ。シネマテークたかさきで、こんな素敵な映画を上映できる日が来るとは。
きっとまた、誰かの背中をそっと、押してくれるに違いない。
(志尾睦子)