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Monthly Column

ー奇跡のような日常の瞬間ー

『精神0』 上映:5月2日(土)〜 5月22日(金)

2020年 日本/米国 2時間8分監督・制作・撮影・編集:想田和弘出演:山本昌知/山本芳子

岡山県の精神科治療院で長年治療にあたってきた山本昌知さんが、高齢を理由に82歳にして引退することになった。山本さんは、患者の社会復帰施設を造るなど、患者を地域で支える体制を構築し、入院中心だった精神科医療の転換に尽くしてきた医師だ。突然の引退に長年慕ってきた患者たちは戸惑いを隠せない。

 

医師という立場を離れた山本さんが、認知症を患った妻の芳子さんとどんな生活をしていくのか。かつては芳子さんがきれいにしていたであろう散らかった台所、ほこりをかぶったコップ。カメラはその生活のありのままを映し出す。

 

 2008年に公開された、想田和弘監督のドキュメンタリー映画『精神』の続編にあたる。前作では患者を主な被写体にしていたのに対し、本作では山本さん夫婦を中心に撮影。10年を経て、助ける側だった夫婦が助けられる側に。台本もナレーションも脚本もない。想田監督のカメラは期せずして今回も奇跡のような日常の瞬間を写し取ることに成功した。

 

 映画の中で山本さんが語った「共生」という言葉や、夫婦が手をつないで歩く姿に大変な状況でも生きる希望を感じる作品。人が生きていくためには何が必要なのか?そのことを映画が教えてくれました。

 

 本作は5月2日から全国で公開される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため全国の劇場が休館。急きょ監督の発案により「仮設の映画館」として有料のデジタル配信を行うこととなりました。これは全国の映画館から1館を選び視聴。視聴料はチケット代として選んだ劇場へ配分されるという仕組みです。シネマテークたかさきも参加しています。詳しくは「仮設の映画館」ホームページまで。

(田口航平)

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