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Monthly Column

ーあのころの未来ー

『幸福路のチー』 上映:3月14日(土)〜 3月23日(月)

2017年 台湾 1時間51分監督:ソン・シンイン声の出演:グイ・ルンメイ/チェン・ボージョン/リャオ・ホェイジェン 日本語吹替版・声の出演:安野希世乃/高森奈津美/LiLiCo

「夜空ノムコウ」を彷彿とさせるキャッチコピー、「幸福」というタイトルに水彩画を思わせる淡い色彩。チコちゃん(に叱られる)のようなおかっぱ頭の少女

ほんわかとしたノスタルジーに浸る物語かと思いきや、その歌詞よろしく、順調ではないようだ。

アメリカで暮らす主人公リン・スー・チーは、祖母の訃報を受け、台湾・台北郊外の故郷「幸福路」に帰る。久しぶりに実家で過ごしながら幼少期の自分を思い出し、過ぎて行った時間を振り返る。チーは今、アメリカ人の夫と離婚するかどうかで悩んでいた

田舎だと思っていた故郷はすっかり変わってしまっていた。幼い頃、親友たちと屋根の上で「ガッチャマン」ごっこをしながら、互いの夢を叫び合った。彼女の夢は「世界を変える」こと。でも、今は世界どころか何も変えられていない。大学を卒業し、医者になれという両親に従うのが当然だと思ってきた。しかし、その道には進まずに幸福路を離れた。自分で決めたはずの道なのに、なぜかしっくりこない。なぜだろう

チーが前に進めなくなって、迷い、立ち止まる時、そこに入り混じるのは昔から好きだった空想の世界。その中では、いつも味方でいてくれた祖母が現れてチーを励ます。その言葉がいい。空想パートはアニメだからこそ描ける世界であると同時に、子どもの頃は何でもできると思っていたけれど、結局、今は何もできていない。そんな苦い現実を示すのに効果的だ。

さらに、チーが過ごした青春時代の台湾は、高度経済成長真っただ中で、38年続いた戒厳令が終わり、社会が大きく変化していた時代である。そんな台湾の近現代史がチーの成長と並行して描かれていくのが秀逸。

人生はなかなか思い通りにはいかない。

チーは度々迷う。「これでよかったのだろうか?」と。

チーが迷う度に、私も立ち止まり、

あの歌詞のように、なりたかった自分になれているのかなぁ

と、思い耽るのであった。(小林栄子)