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Monthly Column

ーそしてすべての大人たちへー

『子どもたちをよろしく』 上映:2月22日(土)〜 3月20日(金)

2019年 日本 1時間45分監督:隅田靖出演:鎌滝えり/杉田雷麟/椿三期/川瀬陽太/村上淳/有森也実

映画評論家で映画プロデューサーの寺脇研さんが企画した映画のタイトルが『子どもたちをよろしく』だと聞いて、おやと思った。聞いたことのあるタイトルだ。同時に、一枚のポスター画が頭に浮かぶ。ベールを被った少女が腕を組む、というよりは自分の腕で自分を抱きかかえているかのような姿勢で立っている写真だ。

 

それは1983年に制作されたマーティン・ベル監督の『streetwise』で、シアトルにある小さな一画で生活する十代の子どもたちにカメラを向けたドキュメンタリー。日本公開の際につけられた邦題が『子供たちをよろしく』だった。大半が家出した子で、様々な事情で親や大人たちの手から逃げてきた結果ここに住み着いたというのが真実のようだった。現実に打ちのめされている子もいれば、あっけらかんと未来の夢を語る子もいた。私がこの映画を目にしたのは大学生の時だから、それなりにいろんな生活を余儀なくされる人たちがいることは知っていたけれど、彼らの心の奥に潜む澱のように固まった悲しみに触れると、胸が詰まった。大人たちは何をしているのだろうと、大人の入り口に立った私はそう思った。それにつけてこのタイトルの真意をその時はつかみきれていなかった。

 

時を経て、日本でこのタイトルを冠した映画ができた。長く教育現場に携わった寺脇研さんがどうしても作りたかったという作品だ。企画をし、隅田監督とともに作り上げたこの映画を見て、私は初めてこのタイトルの真意を深く受け止められたように思った。

子どもたちのいじめ、家庭内の虐待、不穏な空気を生む社会、大人たちの責任の回避、そして人間の弱さがストレートに描きこまれていく。正直あまり直視したくない描き方だ。逃げ腰の大人たちしか描かれないからだ。その中で子どもたちは、生きるために、大切なものを選び取るために、小さな胸を痛めながらどうにか今日一日の一歩を踏み出している。それを見て見ぬ振りをしているのは他ならぬ大人たちなのではないかと、映画はそう声をあげていた。

この閉塞した社会においては、どこまでも追い詰められるのは大人も子どもも一緒かもしれないと思いがちだ。しかしながら、成長し大人と言われる者たちには良い意味で力も知識も権利も獲得するすべがあるのだとまた思う。

だから、『子どもたちをよろしく』に込められた意味はとてつもなく大きい。名は体を表す。この映画を生み出し、名をつけて世に送り出した映画人の心意気に感服するばかりだ。(志尾睦子)

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