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Monthly Column

ー同じ釜の飯を食うー

『おいしい家族』 上映:11月23日(土)〜 12月6日(金)

2019年 日本 1時間35分監督:ふくだももこ出演:松本穂香/板尾創路/浜野謙太/笠松将/モトーラ世理奈

印象深い食事シーンのある映画に悪い映画はない。

 

食卓に並ぶ食事自体に、澄ました顔がほころぶ瞬間に、むしゃむしゃと食する人たちが纏う空間に、映画の光が宿るからだ。小津安二郎映画の慎ましい昭和のちゃぶ台にも、コッポラ映画のコルレオーネ家の大テーブルにも、森田芳光映画の家族横並びの食卓にも、(もちろんあまたの映画たちの中に)映画たらしめる何かがぴかりと写ってきた。さりげなく置かれながら、確実な光を放つシーンにこそ、映画の醍醐味を感じるものだ。人間の営みに欠かせない食事には深く大きな意味がある。そして「同じ釜の飯を食う」にはことさら大きな力が働く。これは絆を生み愛を育てるのだ。

 

さて、本作『おいしい家族』は、まさしくこの「同じ釜の飯」最強説を裏付ける映画だと思う。

化粧品会社に勤める橙花は、最近どうも仕事にハリが出ない。夫とは別居中で、近況報告をしつつの夫との外食もなんだか噛み合わないままだ。同じテーブルについていながら、何一つ同じものを頼まない彼らの体温のなさが印象深い。そんな折、橙花は母の三回忌のため故郷の離島へ久しぶりに戻る。都会暮らしに疲れた彼女を迎えてくれるのはのんびりした島の空気と温かな家族たち。のはずが、目の前に現れた父親・青治は亡き母のワンピースを着て現れ、用意された家族団欒の食卓には見知らぬ人たちが当然のように座り食事を始める。橙花にとって見知らぬ人・和生とその娘ダリアは青治の家で、もとい橙花の実家で一緒に暮らしているらしい。さらに、父は和生と結婚し、自分は母になると言い出す始末。事態を飲み込めない橙花を横目に、スリランカ人と所帯を持った弟の翠は、なんのきらいもなくそれを受け取っていく。

 

この物語には様々なパスが投げられる。生活環境、人種、性別、家族の成り立ち、夢の掴み方、愛情とは何か、人とは何か。登場人物たちが抱えるその時々の思いや問いかけが、ポンっとその人の手から離れ、人の手に渡る。放り投げられる事なく、人の手を介してパスでつながれ、それぞれの大切なゴールへシュートされていくことにこの映画の最大の魅力がある。大事な時には食卓を囲み、力と絆を養い、そしてまた新しいパスをつないでいく。橙花もまた、パスをつながれ、時には自分がつなぎ、大切なゴールを決めていく。ああなんて清々しいのだろうか。

温かくて軽やかでお腹のすく、楽しい映画をどうぞご賞味あれ。   (志尾睦子)