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Monthly Column

ーcolumnー

『サウナのあるところ』 上映:10月26日(土)〜 11月8日(金)

2010年 フィンランド 1時間21分R15監督:ヨーナス・バリヘル/ミカ・ホタカイネン

フィンランドといえば、真っ先に思い浮かぶのが『かもめ食堂』(荻上直子監督/2006年)だ。この映画が日本での北欧ブームに火をつけたし、当館でも連日大入り。観客動員数歴代1位となり、これを超える作品が未だ現れていない。開館間もない頃のピンチを救ってくれた感謝してもしきれない作品である。

本作は、北欧女子たちが「おしゃれ ! 」とか「かわいい ! 」と飛びつくようなフィンランドとは一線を画していて、おじさんたちのたるんだ身体ばかりが登場する。サウナに入りながら、お互いの身の上話や悩み、苦しみを語っている。その様子がそのまま映し出されていくだけなのだ。登場するサウナが実に興味深い。公衆サウナと思わしきところや、森の中の小屋、テント、リノベーションした廃車、そして電話ボックスまで!!実にバラエティ豊かなサウナが次々と現れる。そして、サウナに入るおじさんたちのほとんどが、石の上に柄杓で水をかけている。そして枝葉を束ねたもので体をペシペシと叩いている。あれは一体何なのか・・・? この映画ではそんなフィンランドのサウナ文化に関する説明を潔く省いている。そこがいい。だから、サウナに居るおじさんたちの会話に耳を傾ける。当たり障りのない天気の話でもしているのかと思ったら、とんでもなかった。親権問題で娘に会えない話や、刑務所を出てから幸せについて考えたとか、幼い頃に継父から虐待を受けていた話など、かなりシリアスなものばかり。それがサウナの中、素っ裸で繰り広げられていくのである。ずっと胸の奥に秘めていた想いを吐き出すおじさんの隣でもうひとりのおじさんが静かに話を聞きながら、そっと肩を叩き、石に水をかける。するとサウナの室内に蒸気が上がり、また汗がじんわりと流れていく。その様子はまるで、汗と一緒に心にたまった澱が流されていくかのようだ。彼らにとって、サウナは自分とじっくり向き合う場所になっているのだろう。

自分にとってのサウナはあるか? と、問われているような気がした。(小林栄子)