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Monthly Column

ーcolumnー

『工作 黒金星(ブラックヴィーナス)と呼ばれた男』 上映:8月10日(土)〜 8月23日(金)

2018年 韓国 2時間17分監督:ユン・ジョンビン出演:ファン・ジョンミン/イ・ソンミン/チョ・ジヌン/チュ・ジフン

今年5月のカンヌ国際映画祭で、ポン・ジュノ監督の『寄生虫(原題)』が最高賞のパルムドールを受賞した。韓国映画誕生100年の記念すべき年に史上初の快挙である。 ポン・ジュノ監督のデビューは1994年。当時の映画制作は政治的な圧力の下にあって、苦難と闘っていた。代表作『殺人の追憶』(03年)で映画の裏に流れる影として効果的に扱われている光州事件は絶対に触れてはならなかった。本作のテーマである南北分断も然り。韓国のスパイ組織である国家安全企画部(安企部)の命令で、工作員として実業家を装い、核開発の実態を探るため北朝鮮指導部へ接近を図った実在の人物をモデルとしている。その上、1997年の政権交代を阻止しようと大統領選挙に介入する南北問の大スキャンダルまでもが描かれるというタブーのオンパレードである。 韓国映画をめぐる環境が大きく変わったのは、1996年検閲の撤廃。そして、1998年金大中大統領が誕生してからとなる。映画産業の保護・育成といった国家的なバックアップがなされ、今までタブーとされてきた内容にまで踏み込めるようになった。ここから韓国映画は一気に開花し、パク・チャヌク、キム・ジウン、キム・ギドク、イ・チャンドンといった監督たちが国際的に高い評価を受けるようになる。金大中政権が誕生しなかったら、ポン・ジュノ監督の受賞もなかったのかもしれないと考えるとぞっとする。 『タクシー運転手』(17年)で、民主化への動きが高まり、『1987、ある闘いの真実』(17年)で市民が自由を勝ち取ったが、民主化されてもなお、腐敗した政治や権力が国を牛耳っていたというのだ。祖国のために命を削ってスパイ活動を遂行する1人の男が、偶然知ってしまった安企部の巨大な陰謀にスパイとしての使命と良心の狭間で苦悩する。大量のセリフと顔のクローズアップで展開する心理戦。非常に衝撃的でスリリングなスパイ映画である。
(小林栄子)