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Monthly Column

ーColumnー

『山懐(やまふところ)に抱かれて』 上映:7月27日(土)〜 8月9日(金)

2019年 日本 1時間43分監督:遠藤隆ナレーション:室井滋

2012年頃より地方テレビ局制作ドキュメンタリーの映画化が続いている。その代表作といえば、90歳の建築家とその妻の日常をコツコツと追った『人生フルーツ』(2017年)だろう。その前年には、山口放送制作の『ふたりの桃源郷』が劇場公開され、当館でも多くの方にご覧いただくことができた。電気も水も通っていない山奥で暮らす老夫婦の暮らしを25年にわたり記録したものだ。とてつもない長期取材ができるのは、地方局の特権ではないだろうか。短期間で密度の高いものが作れることに越したことはないが、採算度外視しても手間ひまをかけ、本当に伝えたいもの、伝えるべきものを取材していくことで、濃い人間ドラマが生まれていくのだろう。
今回、テレビ岩手が24年かけて記録したのは、革新的な酪農に一途に取り組む父親とその家族。父親の吉塚公雄さんは、千葉から岩手へ移住し、自然の循環を最大限に生かした酪農法を実践している。山を切り拓き、四季を通じて牛を放牧し、そこで育つ草だけをエサに牛を育てるというものだ。完成すれば、驚くほど良質な乳牛が育ち、その牛乳は栄養価も高いという。しかし、自然相手の厳しい仕事であり、相当の覚悟と忍耐が必要とされる。その上、とれる牛乳の量は一般の3分の1だそうだ。生活は決して楽ではない。吉塚家の5男2女の子どもたちは、文句も言わず(24年を1時間43分に凝縮してあるため、スクリーンに映っていない反発もあったかもしれないが…)野山を駆け回り、父の背中を見ながら、嬉々として牛を追い、干し草を運び、薪をひろい、学校が終われば乳搾りに精を出す。そんな子どもたちも成長し、自分の進む道を模索し始める。時に父親と意見が対立する子もいる。そんな時、父と子は自分の生き方について対等に、真剣に向き合っていく。吉塚一家を通じて、どんな生き方をしたいのか?何が大切なのか?と問いかけられているようであった。
効率主義からかけ離れた酪農を理想に掲げ、実践していく家族を、効率を追求しない長期取材で根気よく記録したドキュメンタリーである。

(小林栄子)