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Monthly Column

ー愛がどうした 知ったことかー

『愛がなんだ』 上映:5月18日(土)〜 5月31日(金)

2019年 日本 2時間3分監督:今泉力哉出演:岸井ゆきの/成田凌/深川麻衣/若葉竜也/穂志もえか

今泉力哉監督を評する際に、「21世紀恋愛映画の旗手」という言葉が使われるようになったのはいつからだったろうか。誰が言い出したのかはわからないが、この表現に私はいたく共感を覚えている。『こっぴどい猫』や『サッドティー』をはじめとする群像劇で、様々な恋愛観を見せてきたこの監督の作品には、時代性を感じ取ることができるからだ。時代性とは現代的な「何か」で、その「何か」は言葉の拙い私にはインスピレーションとしか言いようがないのだけれど、不思議な空間がそこここに散りばめられている感じがする。理詰めで物事を語るのではなく、皮膚感覚とたゆたう空気感で伝える何か。そしてそれは、現代人が持つある一定のドライな感覚に等しい気もしている。
今泉監督の劇場デビュー作は、ドキュメンタリーだった。イカ天出身バンドで当時絶大な人気を誇った「たま」のメンバーらの人となりとその人生にカメラを向けた『たまの映画』には人間愛溢れる不思議な面白みがあった。今にして思えばこれも一種のラブストーリーだったのかもしれない。その後数々の恋愛ドラマを生み出してきた今泉監督は、新作『愛がなんだ』において、新たなる世界に足を踏み入れてきたように思う。角田光代の同名小説の映画化というだけでとても興味が湧くところだけれど、真っ向から「愛」をタイトルに掲げるこの物語にどう向き合っていくのか期待値が上がるというものだった。
大好きな人・マモちゃんに自分の生活全てを合わせていくテルコから始まるこの物語は、枝葉が伸びていくようにその周辺の人生模様を垣間見せていく。テルコは一見するとイタイ女なのだけれど、この「一見すると」、を多角的に見せていくのが今泉流というもので、実に面白い人物像になっていく。そして、そんなテルコと上手に「付き合っていく」マモちゃんもまた、身勝手なわがまま男に見えるのだけれど、見方を変えればそうする事でただ自分の時間を進んでいたりもする。二人の周辺にはそれぞれの「生き方」をする人たちも散りばめられているからなおのこと人生の深みが浮かび上がる。「人のため」は「自分のため」にすり替わり、「自分を大事に」は、「相手のため」にすり替わっていく。観ていくにつれ、主観と客観が自分の中で良きように転がる面白い感覚に見舞われた。
若さゆえの恋愛ドラマだと見くびっていたら火傷した。愛の先の物語がここにはあったのである。いやはや、だから映画は面白いのである。

(志尾睦子)