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Monthly Column

ーYour bird can sing But you don't get meー

『きみの鳥はうたえる』 上映:11月10日(土)〜 12月7日(金)

2018年 日本 1時間46分監督:三宅唱出演:柄本佑/石橋静河/染谷将太

函館出身の小説家、佐藤泰志が自ら命を絶ったのは1990年、41歳の時だった。芥川賞に何度もノミネートされながら、受賞を逃してきたその小説家の名は、その死後作品が絶版になったこともあり世の中から忘れられた。再び、有志たちの手により過去作品の文庫化などがなされ、再評価に結びつく。そして彼の名は死後20年のときを経て、世に知らしめられることになった。佐藤泰志の小説を原作として作られた映画が、平成の映画界にくっきりと足跡を残したというのも大きいに違いない。
2010年に発表された『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)に始まり、『そこのみにて光輝く』(2014年 呉美保監督)、『オーバー・フェンス』(2016年 山下敦弘監督)と、函館市を舞台に映画制作が行われ、日本映画界を背負って立つ若手実力派監督たちが手がけてきた。佐藤作品に通底する、土地の持つ空気感、土着性、人々のひっそりとした、それでも揺るぎない生活感が静かに着実に映像化されてきたように思う。最初の『海炭市叙景』は佐藤作品としては遺作の位置付けで、未完成とはいえ小説家の苦悩と成熟の狭間で生み出されたものなのだろう。映画はそれを感じさせ、深い世界観を作り出していた。以降の映画化は小説の発表年が遡っており、今回の『君の鳥はうたえる』に至っては、佐藤の初期作品となる。この小説は未読だが、軽やかで美しい若者達の生命力溢れる小説なのだろう。佐藤が執筆した年齢とほぼ同じくらいの年齢で三宅唱監督は映画化しているはずで、時代を超えた同世代の心情と世の中へのベクトルがマッチしたと確信する。
これは、美しく繊細で無防備なラブストーリーだ。「僕」と「静雄」と「佐知子」の時間が、柔らかく静かな夏の光に照らされて、フラフラと過ぎていく。さながらフランス映画の登場人物たちのように彼らは軽やかにしなやかに自分の感情といまの時間を過ごす。夜な夜な酒を飲み、踊り、唄い、明け方の街を闊歩する彼らのバックショットの美しさに見惚れてしまう。彼らは若い。しかし若すぎもしない。そもそも年齢ってなんだろうという気にさえなってくる。自由に生きるその姿は紛れもない真実として映るのだが、若さだけが持つ特有さを、この物語は描かない。そんなところがこの映画の最大の魅力じゃないか、と思う。それは演出と役者陣の名演技ゆえと敢えて加えたい。
人は生きていく。人と出会い感情が揺れ、自分を形成し、またときを紡ぐ。それはいつでも同じだ。それは誰もがいつでも手に触れられるものなのだ、と気づかされる。

(志尾睦子)