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Monthly Column

ー青春の落書きー

『高崎グラフィティ。』 上映:8月18日(土)〜 9月14日(金)

2018年 日本 1時間47分監督:川島直人出演:佐藤玲/萩原利久/岡野真也/中島広稀/三河悠冴

「第1回未完成映画予告編大賞は『高崎グラフィティ。』が獲得しました。つきましては、この映画を高崎で撮りたいのです。」そんな連絡が入ったのは昨年の春のことだった。グランプリ受賞者には映画化が約束されているこのコンテスト、未完成映画の予告編を応募するのだが、舞台は限定されたエリアに限り、タイトルにはそのエリア名を入れなくてはいけないという条件がつく。『高崎グラフィティ。』と聞いて当然のことながら真っ先に浮かんだのは『アメリカン・グラフィティ』であり、高崎に住む若者たちの青春群像劇なのだなと推測した。それにしてもなかなか韻が良い。これは考えつかなかったな、と一人笑った。
打ち合わせに現れた川島直人監督は千葉県出身。今回の応募は学生時代の仲間で企画したもので、撮影担当の武井さんが高崎市出身ということだった。
ジョージ・ルーカス監督の名を世に知らしめた『アメリカン・グラフィティ』は1973年の作品、青春群像劇の金字塔として君臨する。若者たちの葛藤や焦燥感、片田舎から都会への憧れや挫折というのはいつの時代も共通する。とはいえ、国や時代がまとう精神性がキャラクターを特徴付けるのだから、名作を彷彿とさせるこのタイトルを冠に、この若い監督はどうやって若者たちの今を切り取るつもりだろうと興味をそそられた。
東京から100kmほどのところ、群馬県高崎市。上毛三山と川を眺めて育った地方の高校生たちの卒業式からこの物語も幕をあける。大きな夢を抱いたり、ささやかな幸せを望んだり、変わり様のない自分の人生に諦めを覚えている者もいる。たわいもない会話で、ふと自分の本心に気づくなんてこともある。卒業式を終えた彼らは、まさしく人生の分岐点にいる。
明日への一歩を前に、大問題に直面した美紀を助けようと寛子、優斗、康太、直樹は立ち上がる。其々も悩みを抱えながら、それでも誰かのために奔走する。自分の問題から逃げる口実かも知れない、でもそこから始まる何かに彼らは少しずつ近づいてもいく。
未熟な精神性はそのままに、その揺らぎときらめきを抽出する。その等身大で実直な作風は涼風をもたらす佳作になった。
高崎の地で、多くの方々のご協力のもと出来上がった映画だ。この場をお借りして心からの感謝を申し上げたい。こうした映画が高崎の地から生まれ、旅立つ事に素直に感激する。新しい青春の落書きは、いつの日かまただれかの憧れになるのだろう。そう願ってやまないのだ。

(志尾睦子)