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Monthly Column

ー優れた喜劇の作り方ー

『エキストランド』 上映:3月10日(土)〜 3月23日(金)

2017年 日本 1時間31分監督:坂下雄一郎出演:吉沢悠/戸次重幸/前野朋哉

若手映画作家の中でもちょっと異端だな、と思うひとりが坂下雄一郎監督だ。
彼が世に放った作品は新作『ピンカートンに会いにいく』を含めてこれまで5作。実はシネマテークたかさきでは彼の作品を全て上映している。2013年のオムニバス『らくごえいが』では、落語の「猿後家」を原案にしたパートを担当。セリフ劇を上手く構築して楽しませてくれた。次いで、『神奈川芸術大学映像学科研究室』では、学生が起こしたちょっとした事件を(もちろん彼らにとっては大きな出来事なのだが)大人たちが手前勝手に隠蔽しようとすることで、さらなる事件が起こっていくというものだった。クスクスと笑えるけれど決して適当に事態を受け流さない。事実と真実の違いを軽妙に描き出すそのうまさが光った。記憶に新しい『東京ウィンドオーケストラ』では、有名オーケストラと間違えて素人楽団を呼んでしまった町役場のひと騒動を描いているが、図らずも一大事に直面した時の人間の発奮が、物語を面白おかしく彩っていた。
さて、『エキストランド』は町おこしのために映画制作支援に奔走する市民が、彼らの良心を都合よく利用するプロデューサーに翻弄されていくお話だ。知らぬ間に被害者が加害者になるような“実は怖い”現実が面白おかしく描き出されて行く。朱に交われば赤くなる現象の中、泥中の蓮に胸救われる瞬間もある。このオフビート感がたまらなくうまい。
『ピンカートンに会いにいく』では、ブレイク寸前で解散した伝説の5人組アイドル・ピンカートンの人生に迫っていく。20年後の再結成を仕組んだレコード会社の青年の並々ならぬ思いはどこから来るのか、そしてそこに巻き込まれる5人は、どんな人生を歩んできたのか。垣間見えてくる人生模様には妙な説得力があるし、別々に歩んだはずの道が再び重なる時には、おかしいくらいの安堵感が生まれる。優れた洞察力から生まれる人物設計だから素直に共感できるのだろう。
坂下作品はどれもが優れた喜劇である。そして最大の特徴は、物語の主幹を担う人物とサイドを固める人物の役割がはっきりしているにもかかわらず、そこに遜色がないことだ。登場人物の誰一人として添え物になる人がいない。全ての人にドラマがあり、悲喜交々の人生がある。それを喜劇にするのもまた映画監督の使命なのかもしれないと、この若手作家に気づかされる。

(志尾睦子)