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Monthly Column

ープラトニック・ラブのはじまりー

『パーティで女の子に話しかけるには』 上映:1月20日(土)〜 2月2日(金)

2017年 イギリス 1時間43分監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル出演:エル・ファニング/アレックス・シャープ/ニコール・キッドマン

大学生の頃、ある教授が講義で『私たちはプラトニック・ラブなのです』と、ご主人との出会いをそう表現された。生真面目な教授の恋愛話が何故唐突に始まったのか、覚えていない。日本語訳で純愛と訳され、純潔を意味すると思っている人が多いでしょうが、本来的な意味はそうではないという話に、耳が傾いた。
プラトニックの語源が哲学者プラトンから来ていることもその時まで知らなかった。人間は元来球体であったものが、二つに分かれて世に解き放たれているのであり、生きるという行為は、本来の自分の姿に戻るための片割れを探す旅なのだ、と言われて心がざわついた。完全体に戻る相手に出会うことがプラトニック・ラブなのだと、「愛の起源」について語られた。人間になって20年も生きていない私のその旅は、この先もきっと長いであろうとをその時思い、切実な何かが胸に刻まれた。
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督の映画デビュー作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を観たのは、その話を聞いてからほどなくしてだった。愛とは自分のカタワレを探す事なのだと歌うヘドウィグに、あの授業で感じた感覚が重なった。私とは比べ物にならない「愛の起源」への憧れと、同時に怒りと悲しみがヘドウィグから伝わってきた。繊細で大胆な映画の世界に私はどっぷりと浸ったものだ。
さて、『パーティで女の子に話しかけるには』でも、愛の起源は通底するテーマだ。舞台は1977年のロンドン。エンはパンクに憧れる少年だ。粋がりたいお年頃、つるむ仲間のハッチャケ度具合に引っ張られ、それを楽しみつつも、女の子をさらっと口説くことが出来ない内気な面もある。そんな彼がある日、とあるパーティで美少女ザンを見つけてしまう。不思議な集団生活を送るザンは、大人たちから押し付けられる規則に息苦しさを覚えており、彼女の内なるエネルギーは爆発寸前だった。エンが語るパンクの世界に魅せられたザンは、エンとともにその場を飛び出していく。
瞬時にして恋に落ちた二人は、「愛の起源」に立ち戻る象徴のようだ。愛の起源は種の起源にも繋がっていく。甘酸っぱいラブストーリーだと思っていたら大火傷だ。物語は壮大で哲学的で機知に富んでいる。音楽も色彩も衣装も、全てが、生命の力強さを思わせ、刺激的だ。
世界はどこまでも広く豊かで眩しい。その根源にはいつだって愛がある。
なんともスペクタクルで愛おしい映画なのであった。

(志尾睦子)