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Monthly Column

ー二つの背中ー

『望郷』 上映:11月25日(土)〜 12月1日(金)

2017年 日本 1時間52分監督:菊地健雄出演:貫地谷しほり/大東駿介

個人的感傷だが、望郷という言葉を聞くと、フランスの名優ジャン・ギャバンが船を眺める切ない表情が脳裏に浮かんでしまう。そのイメージは、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督による1937年制作の『PEPE LE MOKO』による。主人公の名を冠したこの物語につけられた邦題は、『望郷』だった。
パリ警察から追われる前科者のペペは、逃亡の末フランス領だった北アフリカ・アルジェリアの地カスバに流れ着いた。身を潜めながらも地元民とうまく生きて来た彼はある日、この地へやって来た美しいパリジェンヌ・ギャビーに心を奪われる。愛情を抱くと同時に、彼女を通して彼の心に甦るのは久しく離れた郷里への想いだった。愛と郷愁の物語はラスト、大海原へ出航する船を背景に終焉を迎えるが、そのシーンは思いのほか胸に迫った。愛を求め、郷里を求めながらも二度と故国の土を踏めない男の哀切は、望郷の言葉とともに強い印象を私にもたらしたのだった。
さて、その80年後に日本で誕生したこの『望郷』もまた、奇しくも海を眼前にした土地の物語だ。私の脳裏に焼きついたあの港の哀切が本作にも漂う。舞台は因島をモデルとした島であり、どこまでも続く地平を眺める時とは違う感触が映画を纏ってもいる。
島の名家に生まれた夢都子は、厳格な祖母が守る家のしきたりのもと成長し、そのため常に我慢や寂しさを覚えるようになっていた。そんな彼女にとって、小学生の時本土に出来たレジャー施設・ドリームランドは、幸せな家族の象徴になった。行きたいと願いながら行けぬまま大人になった彼女は、結婚し親にもなったが、あの頃の寂しさが払拭されることはない。
夢都子の同級生・航は高校卒業と同時に島を出てその後教員となり、9年ぶりに島に戻ってきた人物だ。航の父もこの島で教員をしていた。忙しく口数の少ない人だった。子供の頃の一大イベントだった進水式に父親と行けなかった航は、その時からどこか気持ちがすれ違ったまま成長した。父は数年前に他界したが、航は消化できない思いを抱えたままだ。
島に居続ける夢都子と、島に戻ってきた航。島に故郷を持つ二人の対比は、本土と島の物理的、心理的距離感を浮かび上がらせる。人物の心象に寄り添うカメラの優しさ、光と陰で構成された情景の豊かさが物語の本質を引き出していく。
人は自分を振り返る時、故郷を切実に捉えるのかもしれない。それはさらに前に進もうとするあらわれなのではないか。一筋の光が差す『望郷』は、そんなふうに私に語りかけた。

(志尾睦子)