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Monthly Column

ー名もなき英雄ー

『エルネスト もう一人のゲバラ』 上映:10月6日(金)〜 11月3日(金)

2017年 日本他 2時間4分監督:阪本順治出演:オダギリジョー/永山絢斗

歴史的に大きく名を残さなかった人を、敬意を持って「名もなき英雄」と称することがある。「名もなき」とは、広く世に知られていない人という意味である。ごく近くにいた人たち以外が、そうした英雄たちを知るというのは、あるエネルギーのもとに成り立つほかないものだ。
『エルネスト』はそうした名もなき英雄の姿を、映画という巨大なエネルギーをもって後世に繋げようとする意欲作だ。エルネストと言えばキューバ革命の歴史的英雄チェ・ゲバラの本名であるが、この映画が描くのは、ゲバラとともにボリビア戦線に立ち、その短い生涯を閉じたエルネスト・メディコと呼ばれた戦士である。エルネスト・メディコの本名は、フレディ前村ウルタード。日系人が、かの革命戦士の中にいたという事実に素直に心を動かされる。ましてや、阪本順治監督が描くのだから、史実を受け止める作業に留まらないはずだ。映画が伝えてくれるであろう計り知れない期待値は、さらに大きくなっていた。
本作は、キューバ革命の数ヶ月後、ゲバラが広島を訪問した描写から始まる。敗戦国日本の当時の姿、革命戦士ゲバラの心情や人となり、日本と世界を照らして必死に何かを得ようとする記者の姿が、短いエピソードの中に明確に詰め込まれる。エルネストの広島訪問を導入として、物語は後にエルネスト・メディコとなる青年フレディの物語へと動いていく。
日本人の父とボリビア人の母との間に生を受けたフレディは、貧しい友人たちを常にいたわる少年に成長し、医師を志すようになった。17歳で共産党青年部に所属すると、市長の汚職を告発するなど血気盛んな学生時代を過ごす。そうした中で自国大学への進学が難しくなったのだろう、革命直後のキューバへ奨学生として留学をした。医学生として勉学に励む中、キューバ危機に直面した彼は、迷うことなく志願兵として監視隊の任務につく。ペンを握っていた手に銃が握られた。数日後、キューバ危機は回避されるが、米ソの取引で収拾した結論に、フィデル・カストロやチェ・ゲバラらが激昂したように、いち学生兵士の彼もまたその怒りに震えたのだ。
怒りは彼を革命の元に連れて行った。エルネスト・メディコの短い、けれど強い人生に、心を動かされずにはいられなかった。
今、世界は不穏な空気に包まれている。Jアラートが作動する中、この映画が問いかけるものは大きいはずだ。いつだって世界を変えるのは人の力なのだから。
(志尾睦子)