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Monthly Column

ー映画が教えてくれたことー

『BOMシリーズVol.14』 上映:12月4日(土)〜 1月7日(金)

映画館を始めて間もない頃。スタッフ同士の情報共有メールで、事務連絡の最後に添えられた一言に目が止まった。そこには、「エドワード・ヤンは僕の青春でした」と書かれてあった。衝撃だった。私はそれまで、そんな風に自分と映画を捉えた事がなかったからだ。まだ20代の青年が、そう表現することの映画愛がとても眩しく、羨ましかった。

 

私と映画との本格的な出会いは、とても遅い。卒論のテーマを「空間と時間」に決めたはいいが、具体的な題材が決まらず考えあぐねていた時、教授に与えられたお題がロードムービーだった。映画監督ヴィム・ヴェンダースの名前が挙がったものの、教授に言われた彼の代表作どれ一つも私は知らなかった。たまたま俳優に惹かれて手に取ったジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』『ナイト・オン・ザ・プラネット』『デッド・マン』あたりが面白くてジャームッシュ作品を調べているうちに、ヴェンダースとのつながりが出てきて、ようやくそのドイツ人監督に興味が湧いた。『ことの次第』の余ったフィルムをジャームッシュにあげたことで『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の第一部「新世界」ができているという話に、映画製作というのは軽々と国を超えてしまうのだなあと感心し、素直に感動したのを覚えている。

 

紆余曲折を経て、ヴェンダースのロードムービー初期三部作で卒論を書くと決めた私は、貪るように映画を観た。と言っても当時はビデオテープだ。来る日も来る日も14インチの四角いブラウン管テレビで見続けた。あんな小さな世界でも、アリスのふてくされた顔に惹きつけられ、ヴィルヘルムの苦悩に共鳴し、ローベルトの疾走感に憧れた。文献を読み、映画を見直し、関連の映画を探しては見続ける。映画は映画館で、なんていう言葉は当時の私には一つもなかった。私には、あの小さな画面こそが果てしない世界に広がる窓だったからだ。 自分の後ろから光がスクリーンに届けられ浮かび上がる世界、体を包み込む音楽、映画が作り出すその空間は、何ものにも変え難い時間だと知ったのはその数年後である。

 

さて。そうした幸福な映画体験に導かれて私は上映者になった。映画と共に過ごす日常がこんなに豊かだと教えてくれたふたりの監督こそ、私の青春かもしれない。擦り切れるほど観たビデオテープはやがてDVDになったけれど、新たにスクリーンでご紹介できる日が来るとは。上映者冥利につきるというものである。

 

(志尾睦子)